第11回ヤマハVR46マスターキャンプ
 2015年3月に創立60周年を迎えたヤマハは、翌2016年3月に、未来へと繋がるプロジェクトとして、世界で活躍できるライダーの育成を目指し、バレンティーノ・ロッシと「VR46 ライダーズアカデミー」のパートナーシップを結びました。同アカデミーを、ライダー育成・教育のためのシステムのひとつとして、「Yamaha VR46 Master Camp(ヤマハ・VR46・マスターキャンプ)」を開催しています。年2回、若手ライダーを選抜し、約1週間、VR46ライダーズアカデミーの本拠地「The Motor Ranch(モーターランチ)」や「ミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリ」で指導するというプログラムです。

 モーターランチはバレンティーノ・ロッシの故郷イタリア・タヴッリアにある本人のプライベートコース。広大な敷地には、大小2つのオーバルを中心とした複合的なレイアウトのダートトラックがあり、ロッシを始め、VR46ライダーたちのトレーニング施設として活用されています。
 過去には全日本ロードST1000で活躍する南本宗一郎や、ST600の井出翔太らが参加しています。ここ1年間は新型コロナウイルスの影響で中止していましたが、再開された今年は、パッサコーン・サンルォン(タイ/19歳)、ウォラポット・トンドンムァン(タイ/17歳)、アルディー・スティア・マヒンドラ(インドシア/16歳)、アリフ・ダニエル・ビン・ムハマッド・アスリ(マレーシア/18歳)、故・阿部典史選手の長男、阿部真生騎(まいき)(日本/18歳)の5人が参加しました。

 ロッシが「ノリック」こと阿部典史のファンだったことは有名で、自らのニックネームを「ロッシフミ」と称し、髪型も真似してロン毛にしていました。それほどノリックはロッシにとってヒーローだったのです。そのノリックの息子が「VR46ライダーズアカデミー」に参加するということで、欧州では大きな話題になったようです。

 そして、アカデミー一行は、スーパーバイク世界選手権(WSB)が行われているミサノ・ワールド・サーキットを訪れ、参戦チームの「Pata Yamaha with Brixx WorldSBK Team」と「GYTR GRT Yamaha WorldSBK Team」のピットを訪問、ライダーのT・ラズガットリオグルとA・ロカテッリと挨拶を交わしたり、野左根航太(GRTヤマハ)とeスポーツのプレイベントに参加したりと、WSBのパドックを堪能しました。
 真生騎は「当たり前だけど、世界選手権のパドックは、自分が参戦している全日本や地方選と規模が違いました。ピットの中も、ホスピタリティも、すごく設備が整っていました。野左根選手とはオブシーズンに一緒にトレーニングをしているので、とても身近な先輩。野左根選手の走りを懸命に追いかけていました」と言います。

 また、海外レースの環境については、「子どものころに海外旅行したことがあるけど、覚えていないので、今回のイタリアが初海外のようなものでした。イタリアの街並みがとても綺麗で、食事も想像以上に美味しくて、ここでしか体験できないことを経験させてもらい、毎日があッと言う間に過ぎました。いつかまた、ここに戻ってきたいと思いました。いきなり世界に出られる訳ではないので、目の前のことに取り組んで力をつけるしかないと思っています」

 ミサノから戻ると、悪天候のためジムトレーニングが中心となり、真生騎は「ふだんはあまりストレッチをしないので、こんなにジムで長時間ストレッチするんだと驚いた」と言います。また、スノーボードやバスケットの設備があり、「整った設備で効率よく身体を鍛えて、また他のスポーツを楽しむこともできるなんて、ちょっと次元が違うなと思いました」と、プロフェッショナルな環境に驚きながら、トレーニングをこなしました。
 キャンプ最終日は、Galliano ParkサーキットでYZF−R3でのレースを実施、1位がマヒンドラ、2位サンルォン、真生騎は3位に入りました。その後、VR46本社で卒業セレモニーに参加、ヤマハVR46マスターキャンプの公式参加証書とVR46からたくさんのプレゼントを受け取りました。

 そして、いよいよキャンプの締め括りでは、VR46ライダーズアカデミーのトレーニング・セッションでロッシとの対面を果たしました。

 真生騎はロッシとの対面を「もっと大きい人のイメージだったんですが、そんなに大柄ではなかったですね。すごく気さくで、一緒に写真を撮ろうと誘ってくれました。このキャンプに参加し、メンタル面ではものすごく大きなものが残ったように思います。自分の目指す道が明確になったというか…。世界を走りたいという気持ちがはっきりしたように思います」と、漠然としたイメージが輪郭を持ったようです。

 真生騎は、超レジェンドライダーのバレンティーノ・ロッシのことはなんとなく知っているけど、野左根以外で、ここで出会った著名なライダーたちのことはほとんど知らない。ライダーに憧れてレースを始めた訳ではないからだ。バイクを始めるまではバスケットボール部に所属し、レースとは無縁の生活。それが13歳のとき、運命的にバイクに乗ることになり、その魅力に導かれるようにレース参戦、全日本までやってきました。このキャンプで明確な目標として世界を見るようになった真生騎、次のターゲットは鈴鹿8時間耐久ロードレースへの初参戦です。AKENO SPEED・YAMAHAから伊達悠太とともに挑みます。