必要な“ボス”の存在
カミュが斬る
ホンダの大逆襲を担うロス・ブラウン。優勝請負人だ(資料)
ホンダの大逆襲を担うロス・ブラウン。優勝請負人だ(資料)
 07年は不振のシーズンを過ごしたホンダだが、元フェラーリのロス・ブラウン・テクニカル・ディレクターを迎え、反撃が期待できる。が、それだけが理由ではない。今季の大苦戦を来季に生かすため、ホンダはすでに数カ月前から動き出しているのだ。(パトリック・カミュ=フランス・オートエブド誌記者)

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 チームはまずジェフ・ウィリスの離脱後に適用されたフラット組織がF1では作動しないことを理解した。エンジニアリング・ディレクターのジャッキー・エッケラートは語る。「確かにF1の成功は1人で築けるものではなく、エンジニアが集まって初めて可能なものだ。しかし同時に、チームに正確な方向性を与えること、チームがしっかりと統率されることも必要だ。そして正しいタイミングで正しい決断を下せる“ボス”が必要なことも事実でロスは欠けていた部分を完ぺきに埋めるだろう。ザウバー/フェラーリがパートナーであった6年間、僕は定期的に彼と仕事をしてきたし、彼のことはよく知っているつもりだ。ベネトン、フェラーリでの経験やキャリアによって、彼はカリスマ的な雰囲気を身につけた。ホンダでもそのやり方は自然に受け入れられるだろう。フェラーリは今年、ミハエル・シューマッハーやロスがいなくても勝った。それは彼が築いた組織やシステムが優れている証拠だ。1人の人間が去って崩れてしまう組織は優れたものとは言えない」

 ウィリスはテクニカル・ディレクター(TD)であると同時に空力エンジニアでもあった。彼が抜けた後、2人のシニア・エンジニアが率いてきたエアロ部門であるが、その1人はシーズン半ばにチームを離れた。エッケラートは続ける。「2つめの風洞が動き始めたとき、空力責任者だったマリアノ・アルペリンは突然1人ですべてを背負うことになり、道を見失った。空力部門は“漂流”を始め、事態は悪化するばかりだった」

 空力部門にはすでに多くの人員が補強され進歩しているが、ロスはあらためて体制を整えることになる。「僕らはコンピューター上で空力をシミュレートするCFD部門を強化し、チームの一部に組み込んだ。CFD部門は独立したグループで構成され、チーム外の仕事も請け負っていたからね。今はCFD部門もF1の工程の一部だ。空力理論はCFD、空力実験は風洞、そして空力の証明はコース上で行う。06年にホンダへ来た時、僕はこの分野が遅れているのに驚いた。プライベートのザウバーの方がずっと進んでいたんだ」

 R107は空力的に完全な失敗作だった。80%は純粋に空力自体が原因であり、残る20%はブリヂストン・タイヤへの適応に失敗していた。「タイヤの変形による空力の影響を予測するCFDがなかった。06年11月に気づいた時にはパニックだったよ。マシンを改良し、何とか解決しようとしたが、モノコックから造り直す方が良かったね。で、08年に力を注ぐことを選んだんだ」

 R107は重量配分的に大きな欠点はなく、機械的には優れたマシンといえる。「問題は空力重心が安定しなかった部分だ」とエッケラートは続ける。「コーナー手前で7速/310km/hに到達する時、2速/150km/hまで減速してコーナーに入る時、100km/hから加速する時、ダウンフォースの重心はホイールベースの1〜2%を超える変化をしてはならない。マシンの挙動やライドハイトにかかわらず、最大でも30〜50mmを超えて移動してはいけないんだ。R107ではブレーキングですべてがフロントに片寄り、後輪がロックしてオーバーステアになった。そして加速時は逆にすべてがリアに片寄り、アンダーステアとなり、ドライバーがアクセルを戻すと逆の症状が繰り返される。ドライバーにとってはまともに運転できない、エンジニアにとってはセットアップが不可能なマシンだった。07年は最悪だったが、多くを学ぶことができた。データを見る限り、来年は見違えるようなマシンになるはずだよ」

 復活をかけたR108は1月の第3週に発表される。(訳=今宮雅子・IRIS)