不況に耐えられず〜MotoGP&インディは続行
福井社長が緊急会見
F1撤退を発表するホンダの福井威夫社長と大島裕志常務(カメラ=笠原和則)
F1撤退を発表するホンダの福井威夫社長と大島裕志常務(カメラ=笠原和則)
 ホンダは5日、都内で緊急記者会見を開き、今季限りのF1撤退を発表した。出席した福井威夫社長は、世界的に広がる金融危機などの影響を受け、経営資源の効果的な再配分を迫られた末の決断と説明。英国・ブラックリーに本拠地を構える「ホンダ・レーシング・F1チーム(HRF1)」は売却することになり、成立しなければ解散となるが、早くも3人が獲得に手を挙げた。ホンダは1964年のF1初挑戦以来、2度の休止を経て00年から3度目の参戦を果たしていた。今回は世界情勢の厳しさの長期化が予想され、初めて「撤退」という表現を使った。F1のみならず世界中に大きな影響を与えそうだ。

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 午後1時32分、あふれんばかりの報道陣で埋まったホンダ本社の会見場に現れた福井社長は、淡々とした口ぶりで熟考の末にたどり着いた結論を語り出した。「私どもホンダはこのたび、2008年をもってF1レース活動から撤退することを決定いたしました」。寝耳に水。わずか2週間前のバルセロナ合同テストではレギュレーション(ルール)が大きく変わる09年シーズンへの期待に満ちあふれていただけに、まさに衝撃的な撤退発表だった。

 理由は単純明快。「急激かつ大幅な市場環境の悪化に対し、将来への投資を含め、経営資源の効率的な再配分が必要との認識から、F1活動からの撤退を決定しました」と福井社長。世界中に広がる金融危機に端を発する深刻な不況への対応策の一環であることを強調する。さらには原油や原材料費高騰の対応策となるハイブリッドカーや低燃費車両への開発に力を注ぐため、F1活動を担ってきた延べ千数百人ものエンジニアらを再配置するのが目的という。

 2009年3月期の営業利益が前年同月比の半分以下、5000億円超の減益が見込まれ、国内外の工場で人員削減を明らかにしている今、年間予算500億円超といわれるF1活動の撤退は致し方ないことかもしれない。「9月時点の状況ではこんな決断はなかった。11月に入ってからの加速度的な景気の減速は、想像を超えた状況。正直なところ、F1活動は大きなインパクトを持っており、個人的には毎年(撤退を)考えてはいたが、今回は厳しい環境でこうなった。最終決定したのは昨日(4日)の午後。まずはチーム関係者へ連絡した」と、撤退に至るまでの状況を説明した。

 HRF1は、700人ほどの従業員の雇用確保をめざし、まずはチームの売却先を模索することになった。すでに3人が獲得に名乗りを上げたといわれるが、現実には世界的な不況で、09年シーズンを滞りなく迎えられるまでに交渉をまとめ上げるのは厳しい情勢。ましてホンダはエンジン供給を続ける意思もない。最悪の場合は解散となり「UK(英国)の法律に則り、最大90日間で協議を進めていく」と会見に同席したモータースポーツ担当の大島裕志・常務執行役員が説明した。

 来年、3年ぶりにF1を開催する傘下の鈴鹿サーキットは予定通りF1を開催するが、「2輪のMotoGPとインディカー以外はこれから詰めます」と福井社長。厳しい状況を見据え、国内で最も人気のあるスーパーGTを含めたモータースポーツ活動はすべての見直し対象という。「(F1復帰など)将来のことは全くの白紙。個人的には今でもやりたいという気持ちはとても強いが、状況が許さなかった」と結んだ。レーシング・スピリットを企業精神にまで掲げるホンダが、その象徴ともいえるF1から去る。自動車業界を取り巻く厳しい環境は、企業理念すら維持することを許さなかった。(田村尚之)

 ○…今回下した撤退の決断が正しいかどうかは「5年後にF1をやめた力で何ができたかで評価されるもの。どんな商品を出しているかでしょう。F1につぎ込んできたリソースや人材を新しいことにつぎ込みたい」と福井社長。急な撤退で企業イメージの悪化や違約金などの痛みも負うが、原油や原材料費高騰の問題、さらには環境問題に直面している自動車業界で生き残るためには、この時期に判断を下すしかなかったと力説した。

 ○…統一エンジンの採用などF1を取り巻く環境の変化が撤退の引き金になったという見方もあるが、「今でもF1のブランド・イメージは落ちていない。たとえ統一エンジンになろうが、F1はF1」と福井社長はきっぱり。ここ数年の戦歴が芳しくないことも「今季の成績はまるで(撤退には)関係ない」とも語った。

 ○…ホンダの撤退発表を受け、実動部隊HRF1のN・フライCEOが「この12時間以内に3人から真剣な買収の打診を受けた」と英国BBCに語ったという。来季から導入される運動エネルギー回生システム「KERS(カーズ)」を含めた車両開発はどこよりも先行しているといわれ、700人の従業員の雇用確保が約束されれば買収費用は事実上ゼロと見られており、思った以上のバリューがあるのかもしれない。厳しい経済情勢ながらチーム売却は完了できるかもしれない。

 ○…F1撤退のニュースは、ホンダのF1スタッフも5日になって知った。すでに09年シーズンの準備のため定期の人事異動も終わり、英国に渡った人や市販車部門から栃木研究所のF1エンジン開発セクションに移ってきたエンジニアもいて、歓送迎会も済ませたところだったという。寝耳に水の撤退決定に、ホンダ社内でもショックが広がっている。

 ○…ホンダの本業の経営は米国などの自動車市場低迷で苦戦。今年10月に2009年3月期連結決算の業績予想を下方修正。売上高を7月公表より5300億円少ない11兆6000億円にした。世界的な需要減退で埼玉製作所(埼玉県狭山市)や北米、英国の生産拠点で減産。同製作所など国内4工場で来年1月までに計約760人の期間従業員の削減を決めた。

 ○…東証1部のホンダ株価は、F1撤退発表を受けた5日の終値は前日比32円安の1653円と、連日の今年最安値となった。今年は一時4000円近くまで上がった株価は、浮上のきっかけがつかめないまま下降が続いている。