「誰よりもやめたくなかったはず」〜F1界へ警鐘も
撤退報道で各方面に衝撃
スーパーアグリの発表で晴れやかな笑顔を見せた(左から)井出、亜久里代表、琢磨=06年3月
スーパーアグリの発表で晴れやかな笑顔を見せた(左から)井出、亜久里代表、琢磨=06年3月
 今年4月のスペインGPを最後にF1からの撤退を余儀なくされたスーパーアグリの鈴木亜久里元代表(48)が5日、ホンダ撤退のニュースに複雑な胸の内を明かした。F1を目指す後進への影響を危惧(きぐ)しながらも、撤退を決めざるを得なかったホンダ側の事情を推察。高コスト体質を当然としているF1の現状に警鐘を鳴らした。またホンダ・エンジンで日本人初のF1フル参戦を果たした中嶋悟氏(55)ら国内モータースポーツ関係者も、一様にショックを隠せない様子だ。

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 つい7カ月前に自身も同じつらい決断を下しただけに、その悔しさは察するに余りある。トルコGP開幕を3日後に控えた5月6日、F1撤退を発表した元スーパーアグリ代表の亜久里氏は「ギリギリの決断だったのでしょう」と、ホンダの福井威夫社長を思いやるような口調で語り始めた。

 「ホンダは日本のレース界の象徴。もちろん悲しいし、日本のモータースポーツ界にとっても大打撃ですよ。でもホンダにとってF1がどれだけ大事で、どれだけファンがいるのか一番分かっていたのも福井さん。誰よりもやめたくなかったはずで、きっと断腸の思いで決めたのでしょう」と力説。その上で「世界的な金融危機で、やめたくないのにやめざるを得ない状況に追い込まれた。オレが経営者でも同じ判断をしたと思う。ただこれだけ速いスピード判断はすごいですよ」と“大英断”に驚嘆した。

 ただしF1を目指す若手に与える影響を考えると、自然と口も重くなる。「F1はカートをやっている子どもたちの大きな目標。ホンダの撤退で、その目標が音を立てて崩れていくように受け取られるのではないか。『夢の世界がなくなっちゃう』と思われかねない」と亜久里氏。自身もカート大会開催などを通じて後進育成に汗を流しているだけに、不安を隠せない。その怒りは、常識外れの資金を必要とするF1の運営団体にぶつけられた。

 「国内のモータースポーツと比べ、とにかくF1の予算はけた違い。何百億円もかかる現状はおかしいし、世の中の感覚ともずれている。ルールの問題だっておかしい」。亜久里氏の参入当時はOKだったカスタマーカー(既存チームが製造したマシンの購入)が突然認められなくなったり、不透明な面が多いF1の現行ルールに疑問を投げかける。

 「これまでの状況が変わらないならホンダに限らず、どこのチームだってF1をやめてもおかしくない。それぐらい事態は深刻な気がする」と、自身の経験を踏まえながら警告した。このままF1の高コスト体質が続けば、他のメーカー系チームも追随しかねないとの思いをぬぐえないようだ。(千葉亨)

 ○…ホンダのF1撤退が政界に与えたショックも大きい。河村建夫官房長官は5日午前の記者会見で「『世界のホンダ』だから残念だ。企業経営の観点からの判断はあるだろうが、(不況を)乗り切れば再開することを希望したい」と述べた。中川昭一財務相兼金融担当相は「F1ファンとしては非常に残念なこと。ただホンダに限らず自動車メーカーは厳しい状況にあると報道されている」と指摘。二階俊博経済産業相は「世界のホンダとして自動車産業全体の発展のために、F1事業がやがてまた継続してなされることを期待する」と語った。また、自民党の笹川尭総務会長は「非常勤の人に辞めてもらう以上、F1をやめねば企業として成り立たないのだろう。残念だ。ファンとしては寂しい」と国会内で記者団に語った。

 ○…日本人初のF1レギュラー・ドライバーとして、1987年にホンダ・エンジンを搭載したロータスからデビューした中嶋氏は「自分としては誠に残念の一言」と言ったまま絶句。「撤退に関する詳しいリリースの内容を見ていないので多くは語れない」と断りながらも「F1からホンダの名前がなくなるのはとても寂しい」と声を落とした。

 ○…ホンダ系の鈴鹿サーキットを抱える三重県鈴鹿市では驚きや残念がる声が相次いだ。「ホンダは市民にとっても誇り。非常に残念だ」と言うのは同市の地域振興を応援する「SUZUKAと・き・め・きファン倶楽部」会長の大谷芳照さん。「今は会社が大変な時だが、いつかきっと再び参戦する日がくると信じて待ちたい」とエール。川岸光男市長は「突然のことに大変驚いている」とコメント。ただ来年10月には3年ぶりのF1開催を控えており「これまで通り地元協議会と連携して開催機運を盛り上げたい」とした。

 ◆佐藤琢磨「ホンダがF1から撤退するという報せを聞いて、とても残念に思うと同時に強いショックを受けています。自分がモータースポーツ界に足を踏み入れることができたのは、ホンダと鈴鹿サーキットで運営されているSRS−Fというレーシング・スクールのおかげですし、そもそも自分がF1に興味を抱いたのは、87年に鈴鹿で開催されたF1日本GPでロータス・ホンダに乗るA・セナを見たのがきっかけでした。以来、自分のなかでホンダのスピリットは絶対的なものとして生き続け、自分のF1におけるキャリアは常にホンダとともにあり続けてきました」(自身のHPから抜粋)

 ◆B.エクレストンFOM(F1管理会社)代表「ホンダの撤退は本当に残念なことだ。来年ホンダはトップ4に入ってくると予測していたからね。彼らは巨額の金銭を費やしてきたし、彼らをこのような状況に陥れたのは彼ら自身。多くの会社が経営破たんしている今の世界情勢に比べれば、F1はそれほど大きな危機にひんしてはいない。またチームを買うところはすぐに見つかると思うよ」

 ◆M・モズレーFIA(国際自動車連盟)会長「悲しいニュースだが、驚きはしなかった。ホンダのF1撤退はたいへん意味のある警告とみている。今朝、あらためて各チームにコスト・カットに努めるように通達を出したところだ。自動車の売れ行き不振で苦しんでいる大メーカーの援助に頼っている限り、光明は見いだせない。2010年のルールにのっとって低予算で戦うことができればF1は生き残れるはずだ」