メルセデスCEOと衝突
メルセデスのモータースポーツ参戦125周年を祝うイベントで、ハミルトン(左)とデモランを行ったトト・ウルフ代表=2019年4月(チーム提供)
メルセデスのモータースポーツ参戦125周年を祝うイベントで、ハミルトン(左)とデモランを行ったトト・ウルフ代表=2019年4月(チーム提供)
 【リスボン=ルイス・バスコンセロス】メルセデスのトト・ウルフ代表(48)が、アストンマーティンへの移籍を本気で検討し始めた。親会社のダイムラーとの関係が悪化して思うようにチームを運営できなくなり、親交のあるローレンス・ストロールさん(60)が共同オーナーを務めるチームの加入に心が動いているという。離脱が決まれば、昨季まで選手部門と製造者部門のダブルタイトルを6連覇したチームの屋台骨が崩れるかもしれない。

2つの出来事きっかけ

 世界最高峰のF1でも、人間関係がチームの浮き沈みを大きく左右する。常勝メルセデスを作り上げたウルフ代表が、親会社のトップと反りが合わず、移籍を考えているというのだ。

 きっかけはこの2週間ほどで起きた2つの出来事だ。直前に中止が決まったオーストラリアGPでは、ウルフ代表は全チームの話し合いで開催を主張したが、親会社からの1本の電話で、中止派へのくら替えを強いられた。面目丸つぶれだ。

 親会社のダイムラーは、ディーター・ツェッチェ前最高経営責任者(CEO)の時代はウルフ代表にチーム運営を一任。ウルフ代表は自己裁量で切り盛りして最強チームを作り上げた。しかし、昨年5月にオラ・ケレニウスCEO=写真=の体制になってからは、しっくりこない。レーシングチームにも企業ガバナンスを強く求め、何かと衝突するようになった。

 決定的な出来事は、フェラーリが昨季使ったパワーユニット(PU)の違法性に関する抗議。国際自動車連盟の調査が曖昧なまま終わり、フェラーリ以外のPUを使う7チームが、徹底究明を求めて法的措置も辞さない強気の姿勢を見せた。だが、この件もケレニウスCEOの「イメージを損ねる」という“口出し”で方針転換。共闘を組んでいたレッドブルのヘルムート・マルコ相談役も「突然メルセデスが去った」と漏らした。

 F1チームの代表とはいえ、オーナーから雇われる身。全権を委ねられるケースもあるが、あくまでもオーナーの意思が尊重される。チームの株式を30%所有しているとされるウルフ代表でも、最大株主の言うことは聞かなければならない。

面目丸つぶれ

 面白くないことが続いたウルフ代表が、契約が満了する今季限りでチームを離れることを考えても当然だ。タイミング良く、ストロールさんが共同オーナーを務めるレーシングポイントは、来季からアストンマーティンのワークスとなる。タイトル獲得に向けた強化を進めており、全権を与えてくれる好条件を出されれば、新しい挑戦に心を動かされても不思議ではない。

 一方、ウルフ代表が抜けたメルセデスはたまったものじゃない。同代表の運営手腕は高く、選手やスタッフからの信頼も厚い。歴史的王者となりつつあるルイス・ハミルトンとの関係も良好。離脱が決まれば、ハミルトンの来季以降の交渉が、暗礁に乗り上げる可能性もある。人間関係のひずみが取り返しのつかない事態に発展しそうだ。