1年の苦労報われた〜開幕戦考えれば神がかり的
最終第18戦ブラジルGP編
トップ・チームとそん色のない走りで大きな進化をアピールした琢磨(カメラ=神代雅夫)
トップ・チームとそん色のない走りで大きな進化をアピールした琢磨(カメラ=神代雅夫)
 苦労が報われることが、こんなにも喜びを倍加させるものなのか。最終戦ブラジルGPを終えたスーパーアグリの鈴木亜久里代表(46)は、至福の感情に包まれた。佐藤琢磨(29)10位、山本左近(24)16位という着順もさることながら、レース内容が信じられないほど良かったからだ。1年の苦労を振り返りつつ、本当の勝負となる来季に向けて気を引き締める指揮官の本音は――。

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 ブラジルGPは我々のベスト・レースになった。F1チームを作ってよかったなぁと、これほど強く感じたことはない。鈴鹿のファンの応援に感動してからわずか1週間で、佐藤琢磨10位、山本左近16位という鈴鹿以上のリザルトを得るとは思わなかった。2人とも本当によく走り切ってくれた。

 今回は予選から良かった。中国、そして鈴鹿とようやくマシンの持てる力を出せるようになり、同時に重大なトラブルも減って、ここブラジルでは琢磨がもう少しで第1次予選を突破できるかというところまできた。16番手のタイムまであと0.4秒ほどだったのだが、やはりF1はそう甘くはない。しかし、タイヤを含めたセットアップはほぼ万全のところまでもっていけたと思う。

 決勝レースに関しては「レースやったなぁ、やっと戦ったなぁ」の思いが強かった。これまではマシンのパフォーマンス不足で参加するだけのレースになっていたが、最終戦でようやくライバルたちとまともに戦えることができたのだ。

 面白いものでこういう好レースになると、チェッカーを受けた時に「エ〜ッ、もう終わっちゃうの!?」という気持ちになる。いつもだと「まだやってるのか……」の気分なのだが、今回のレースはアッという間に終わってしまった。それだけ内容が濃く、充実していた証明だろう。

 ドライバーもチームもほとんどノーミス。琢磨はいつものようにマシンの性能の100%を引き出してくれ、しかもレース中盤、トップ・チームにヒケを取らない1分13秒台コンスタントのラップ・タイムで走り続けた。ボク自身、そんなタイムで走れるとは思わなかっただけにあれにはビックリした。エンジニアが何度も無線で「プッシュしろ、プッシュ!」とゲキを飛ばしていたが、琢磨がよくそれに応えていたのはさすがだった。

 来年は琢磨の努力に報いることのできる速いマシンを用意しなければならず、チームも一丸でその準備は進めているが、琢磨とはこれから契約交渉が待っている。

 左近 もよく走った。2回目のピット・ストップで必要十分な量の燃料が入っていなかったようで、1回余分なピット・ストップをさせてしまったのは悪かったが、中国〜鈴鹿〜ブラジルと完走した3戦の中では今回が一番いい走りだった。

 こう言っては左近には悪いが、最速ラップでは琢磨よりわずかに速く全体の7位。詳しく見ると第2区間のベスト・タイムがシューマッハーに次ぐ2位だったのにはいささか驚かされた。経験を積めばもっと力が出せるドライバーになれる。そのチャンスをあげられる道を、これからも左近と一緒に探していきたい。

 ともかく初戦バーレーンを振り返ると夢のような話で、10位でフィニッシュするなど「ありえない」としか言いようがない。なにしろ第3戦のオーストラリアGPで、メルボルンの空港に展示してあった4年前のクルマをバラしてF1カーに仕立て直して戦っているのだから、10位、16位の戦績は神懸かり的ですらある。

 ともあれ内容の充実したベスト・リザルトでシーズンを終えられたことは、来年につなぐという意味で非常に大きいこと。正直、めちゃくちゃうれしい。自分の現役時代の良かったレースよりもずっとうれしい。

 ここまで眠らず休まず働き戦ってくれたチームのみんなにはしばしの間ゆっくりと休んでもらい、オフ・テストに備えて力を蓄えてもらおう。そしてその間、今度はボクが働く番である。さまざまな交渉事や資金集めに奔走する日々が待っている。しかしそれも1年前のいまごろ、たった1人でF1チームを立ち上げたことを思えばさほど苦しくはない。

 F1シーズンは打ち上げとなったが、来年に向かってのボクのレースはまだチェッカーを受けていない。しかしファンと当コラムの読者にはひとまず「声援ありがとう!」と言いたい。スーパーアグリF1チームは、皆さんのおかげで初年度の今年を走れたのだ。本当に素晴らしいシーズンだった。(鈴木亜久里)