全従業員の5%〜“外人部隊”は今や昔
F1プロジェクトも完成形に
TMGの日本人エンジニア。(前列左から)廣瀬、林、岡部、藤田、高橋敬三、(後列左から)田中、杉浦、新居、佐藤、矢嶋、千村氏(カメラ=鶴田真也)
TMGの日本人エンジニア。(前列左から)廣瀬、林、岡部、藤田、高橋敬三、(後列左から)田中、杉浦、新居、佐藤、矢嶋、千村氏(カメラ=鶴田真也)
 トヨタのF1前線基地となっているトヨタ・モータースポーツ有限会社(TMG、ドイツ・ケルン)には全従業員の約5%にあたる30人強の日本人スタッフが在籍している。同社はこのほど、その中から10人のエンジニアを報道陣に紹介した。それぞれ空力、車両、エンジン、トヨタ生産方式などさまざまな分野に携わっており、旗揚げ当初から、“外国人部隊”とやゆされがちだったTMGだが、しっかりと日本人の手で支えられていることをアピール。参戦4年目で表彰台を取れるまでになった原動力とは――。

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 TMGの従業員は600人強。うち7割を占めるのが地元のドイツ人で約30カ国から人材が集まっている多国籍軍だ。日本人の割合は約5%にあたる30人程度。空力、エンジン、部品設計、ピット・ワークの改善で中心となったトヨタ生産方式などさまざまな部門にかかわっており、高橋敬三・技術コーディネーション担当ディレクターは「いろいろな部署に1人ずつ日本人がいるというイメージ。1カ所に固まらず、多くの部署で経験を積ませるため」としている。

 エンジン開発のコーディネーションを担当している佐藤俊男さんはいわば日本のモータースポーツ部(静岡県裾野市)とTMGの橋渡し役で、日本製の部品がエンジンに盛り込まれつつあることを明かす。ブロック、シリンダーヘッド、クランクシャフトの一部が日本で製造&加工されており、「最初はTMC(トヨタ本社)は経験がなく、(日本製の)評判は良くなかったが、TMG側が要求しているものが分かってくると信頼関係ができ、だんだん日本製の品質がよくなっていった」と語る。

 CART(現チャンプカー)で高回転型エンジンの技術は習得したはずだったが、F1は別次元の世界、なかなか通用しなかったという。

 今でもマテリアル(材質)については、アルミなど量産車で応用できる分野は日本側が強いが、航空宇宙産業を軸としたレベルではTMGに1日の長があるといわれる。

 しかし、F1技術は日を追うごとに、日本サイドに吸収されていき、実戦へも徐々に生かされてきている。

 コンピューター上で空力の計算解析を行う「CFD(数値流体力学)」を基に、さまざまな空力パーツを開発している林要さんは、日本時代にセルシオのボディー設計を担当したことがあり、今年話題になった舌をぺろりと出したようなフロント・ウイングをデザインした空力エンジニアだ。

 最近は各チームとも複雑な形状の空力パーツを次々と現場に導入しており、もちろんトヨタもレースごとにモディファイを重ねているが、いずれもCFD解析のたまものといえるのだ。特に今年に入ってからは自社風洞のデータ精度がさらに増し、実走確認を行わないまま、実戦に投入するケースも目立っている。

 「図面を引いて、CFDの中にポンと入れ、そのまま風洞にかけて、実車に入ったこともある」と林さん。

 CFDグループはTMGとモータースポーツ部がベースとなっているが、ほかに豊田中央研究所(愛知県長久手町)と本社工場内(同豊田市)にもあり、4元体制でデータが合わない部分を補完しあっているという。

 外国人部隊とやゆされていた時代もあったTMGだが、今やはるか昔の話。メーカー直結というチームの利点を最大限に生かしきるトヨタのF1プロジェクトは、完成型になりつつある。(鶴田真也)

 <紹介された10人の日本人スタッフ略歴>

 ◇新居章年(あらい・のりとし)(1)50歳(2)79年(3)前輪駆動車のサス設計を担当し、その後ル・マン、GTの車両開発に従事(4)04年(5)車両関係技術コーディネーション

 ◇岡部雄介(おかべ・ゆうすけ)(1)27歳(2)02年(3)カムリのサスペンション設計などを担当(4)04年(研修生制度で配属)(5)車両部品設計

 ◇佐藤俊男(さとう・としお)(1)42歳(2)87年(3)グループCなどのレースエンジン設計を手がけ、CARTプロジェクトにも参画(4)04年(5)エンジン開発コーディネーション

 ◇杉浦芳之(すぎうら・よしゆき)(1)46歳(2)77年(3)試作エンジンの耐久評価試験を担当後、SWC、CART、F1エンジン開発に従事(4)03年(5)ギア・ボックス

 ◇田中俊雄(たなか・としお)(1)44歳(2)−(3)ムーンクラフト、アロウズ、イクザワ、スチュワート、ジャガー、ジョーダンで空力担当(4)05年(TMG契約)(5)空力開発

 ◇千村俊和(ちむら・としかず)(1)42歳(2)88年(3)機械部技術員室、生産調査部、人材開発部などを経てトヨタ・トルコに赴任(4)05年(5)トヨタ生産方式(TPS)

 ◇林要(はやし・かなめ)(1)31歳(2)98年(3)セルシオの車体設計、コンセプトカー「LF−A」の空力開発などを担当(4)04年(5)空力開発

 ◇廣瀬太郎(ひろせ・たろう)(1)37歳(2)90年(3)量産車のトラクションコントロール、ビークルスタビリティーコントロールの開発を担当(4)04年(5)車両運動制御

 ◇藤田啓明(ふじた・けいめい)(1)29歳(2)01年(3)3年近く量産エンジン開発を担当(4)04年(研修生制度で配属)(5)エンジン実験(単気筒の性能評価)

 ◇矢嶋洋(やじま・ひろし)(1)42歳(2)−(3)ヤマハ、いすゞでF1エンジンを設計し、その後はザウバーなどで活動(4)99年(TMG契約)(5)エンジン設計

 ※略歴の見方=氏名(1)年齢(2)本社入社年(3)主な経歴(4)TMG赴任年(5)現担当 (50音順)