レーシングシミュレーターで鈴鹿サーキットを攻める長屋宏和さん=東京都千代田区で(内山田正夫撮影)
レーシングシミュレーターで鈴鹿サーキットを攻める長屋宏和さん=東京都千代田区で(内山田正夫撮影)
 世界のトップドライバーと、もう一度、真っ向勝負をしてみたい。鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)でのレース中に事故を起こし、車いす生活となった長屋宏和さん(42)=東京都渋谷区=が新たな夢を追いかけ始めた。本格レース仕様のシミュレーターや操縦装置を使い、現役F1選手らの参戦で盛り上がりを見せる「eモータースポーツ」への挑戦だ。障害をカバーする“メカニック”の体制も整えた。 (西川正志)

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 東京・秋葉原。本格的なレーシングシミュレーターを備え、サーキットでのレースが疑似体験できる専門ショップ「D・D・R AKIBA」に、練習する長屋さんがいた。モニターには二〇〇二年のレースでクラッシュし、頸椎(けいつい)損傷の大けがを負った鈴鹿サーキットが広がっていた。

 長屋さんは脇から下にまひがある。左手はハンドル、右手はアクセルとブレーキ操作ができる装置に固定し、アクセル全開でスタートした。あっという間に表示速度は二百キロを超え、事故を起こしたヘアピンカーブをミスなくクリア。「限界まで攻められた」と興奮気味に話した。

 世界最高峰のF1の登竜門、F3で活躍していた長屋さん。事故後は懸命にリハビリに励み〇四年、小型のレーシングカートでレース復帰を果たしたが「限界の六割も出せなかった」と振り返る。レースには一〇、一五、一六年と出場したが「抜かれる悔しさ」ばかりが募ったという。

 その後は、レースチームの監督として若手の育成に努めているが、自らがハンドルを握る夢が消えることはなかった。「いつか理想の走りをするために」とジムに通い、首や肩、背中など動かせる筋肉を鍛え続けた。シミュレーターとの出合いは一三年春。友人のレーサー滝井厚志さん(48)が、eモータースポーツの拠点となる「D・D・R」のオープン準備をしていたころ、試乗に誘ってくれた。

 従来のシミュレーターはハンドルやブレーキ、シートなどは実物のレーシングカーと同じものを使い、操作感を可能な限り実車に近づける。だが、滝井さんは、長屋さんのため手だけで運転ができるよう改造してくれた。昨年秋には、ロボットアームなど障害者の動作をアシストする自立支援機器を製造する「テクノツール」(東京都稲城市)の島田真太郎社長(35)と知り合った。島田さんは、さらに反応のいい手動装置の開発を請け負ってくれた。

 新型コロナウイルス禍で、レースが相次ぎ中止となっていた時期には、F1の代わりにオンラインのバーチャル大会が開かれた。リアルな舞台で活躍する世界のトップドライバーも参加し、大きな話題を呼んだ。

 eモータースポーツの裾野は大きく広がっている。長屋さんは、出場する大会をまだ決めていないが強いプロと戦うのが目標だ。「障害者も健常者も同じフィールドで戦えるのがeスポーツ。勝ちにこだわりたい」。事故から二十年。夢の続きに向け走り出す。

 eスポーツ 「エレクトロニック・スポーツ」の略称。コンピューター上のゲームでの対戦をスポーツ競技と捉える。国際オリンピック委員会(IOC)が2021年、東京五輪の開幕前に開いた「バーチャルシリーズ」では、現実の五輪にはない唯一の競技としてモータースポーツが採用され、「グランツーリスモSPORT(GTS)」の世界一を決める大会が開かれた。GTSは、国体の文化プログラムの競技にも選ばれている。
足が動かない長屋さんのために取り付けたアクセルとブレーキを手動操作する装置=東京都千代田区で(内山田正夫撮影)
足が動かない長屋さんのために取り付けたアクセルとブレーキを手動操作する装置=東京都千代田区で(内山田正夫撮影)