教え子の練習を見守る山田満知子さん=名古屋市中区の名古屋スポーツセンターで<br />
教え子の練習を見守る山田満知子さん=名古屋市中区の名古屋スポーツセンターで
 山田満知子にとって、フィギュアスケートとの決別と定めていた結婚が、今思えばコーチを続ける追い風となったのだから不思議だ。夫となった宏樹(ひろき)について尋ねると、「私の持っていないところを、いっぱい持っている。尊敬しています」と明かす。

 多趣味。オートバイをいじったり、オーディオのスピーカーを自作したり。自分の人生を楽しめる人。そして「物知り」だ。満知子は「スケートのことしか知らない」と自覚しているから、困ったこと、分からないことがあれば何でも相談した。宏樹の「世の中、そんなものだぞ」という助言が、いつも満知子の心の強い支えとなった。

 傘寿を迎えた今でもそう。選手が他の指導者の下へと移って行くことは、頭では理解しながらも、どこか寂しく思ってしまうこともある。そんな時、宏樹は「大体な、80歳の、いつやめるか分からないおまえのところにいようと思う方が不思議。俺だったら付いて行かないよ。それが、いたいという人が1人でも2人でもいるっていうのは、ありがたいことじゃないのか」。言葉がストンと腹に落ちる。

 若いころはフィギュア界の人間関係で悩んだ。「みんなに認められよう、きちんとしていると思われたい、と考えているかもしれないけど、そんなのは偽善者。10人いて、3人が認めてくれたら御の字」。そして宏樹は「0はダメだけど」と付け加えて。

 「私が進んで行くことを素晴らしいと思っていてくれる。本人は言わないけど、多分、私のことも尊敬してくれているんじゃないかな」。だから干渉せず、おのおのが自由に生きる。満知子も宏樹の意思を尊重する。そうやって60年近くを過ごしてきた。

 「ものすごく遠い距離にいる。私とお父さんは。だけど糸はグッと結ばれている。だから、どんなことをお互いがしていても大丈夫、みたいな」。2人で培ってきた絆は、何があっても揺るがない。

 (本文敬称略)