歴史の殻を打ち破り、生まれ変わったトヨタ「クラウン」。新時代の高級車を示した(いずれも田村尚之撮影)
歴史の殻を打ち破り、生まれ変わったトヨタ「クラウン」。新時代の高級車を示した(いずれも田村尚之撮影)
 9月から売り出されたトヨタ自動車のフラッグシップ「クラウン」を試乗する機会に恵まれた。新型は1955年の初代デビュー以来、初めて前輪駆動ベースの4輪駆動車に生まれ変わった。それでも、同社を代表する高級車であることに変わりはない。先行販売された「クロスオーバー」は、スポーツタイプ多目的車(SUV)とセダンを融合させた新しい形態で、時代のニーズに応えたゆとりのパッケージ。新時代の高級車の在り方を示していた。 (田村尚之)

 初代から数えて16代目となる新しいクラウンが発表された際には、世間もざわついた。長い歴史を背負う伝統の塊のような存在だったが、見た目もさることながら、伝統の後輪駆動を捨て去ったことは驚きだった。

 しかし、実際にステアリングを握ってみると、違和感を抱くことはなかった。後輪を電気モーターを使って駆動する4輪駆動を採用し、最新の電子制御を駆使して滑らかな走りを楽しめた。

 新開発の排気量2.4リットルのターボエンジンとハイブリッドシステムを組み合わせたモデルは、後輪に水冷式のモーターを採用。オーバーヒートの心配が少ないため、積極的に後輪を駆動する。全体の駆動力に対し、常に20%以上を後輪が担うため安定感が強い。緩やかに回り込むコーナーで、アクセルを踏み込みながら旋回する感じがとても気持ちが良い。

 ターボハイブリッドは、かつてのV6ターボやV8エンジンを搭載していた最上級モデルの役割を担うという。同社のこれまでのハイブリッドシステムとは異なるシステムに取り込み、きびきびした反応を狙って6速ATとの組み合わせになった。狙い通り、アクセルを踏み込んだ際に気持ち良く加速し、変速時のショックを電気モーターのパワーで補うシステムも生きて、極めて滑らかな走りを楽しめた。

 既存の排気量2.5リットルエンジンとハイブリッドを組み合わせたモデルも後輪を駆動しているが、空冷式モーターのため、発進時などを中心にまかなうという。ターボモデルとはだいぶ趣は違うが、早朝の都内を1時間ほど走行した時の燃費が、1リットルあたり20キロに迫っていたのには驚いた。

 新型クラウンは「スポーツ」や「セダン」「エステート」も順次発売の予定。先行発売の「クロスオーバー」は、これまでのセダンより80ミリも着座位置が上がっている。世の中のクルマがSUVメインになった点を考慮した対応のようだが、乗り降りがとても楽になるメリットを生んだ。

 当然、クルマの特性として、やや腰高になったことは否定できない。サスペンションの動く量も増え、クロスオーバーといえどもSUV的な雰囲気は感じ取れる。それによって走行性能の魅力がそがれることはないが、どう受け止めるかはユーザー次第。後発のセダンやスポーツの発売を待つのも手だろうが、個人的には「新時代の高級車」というイメージを強く感じた。

 ◆値段 2.4リットルターボハイブリッドは、605万円と640万円の2種。2.5リットルハイブリッドは435万円から570万円の5種。9月の発売までに、2万5000台の予約が入る人気ぶりで、これまでのクラウンユーザーの買い替えが中心という。
後部は美しいクーペスタイル
後部は美しいクーペスタイル
上品にまとめられた運転席周り
上品にまとめられた運転席周り