祖父“ポップ吉村”の精神受け継ぐ
加藤監督「名に恥じない戦いを…」
ヨシムラ色が濃厚になった来季の「スズキGSX−R1000R」とヨシムラの加藤陽平監督
ヨシムラ色が濃厚になった来季の「スズキGSX−R1000R」とヨシムラの加藤陽平監督
 2021年のFIM世界耐久選手権(EWC)は日本勢に注目。「F.C.C. TSR Honda France」が引き続き参戦し、2017/18シーズン以来2度目の世界制覇を目指す。さらに、EWCタイトル16回を誇る古豪「Suzuki Endurance Racing Team(SERT)」がヨシムラとタッグを組んで新たに「YOSHIMURA SERT Motul」として参戦することになった。TSRの藤井正和監督、ヨシムラの加藤陽平監督が世界の舞台で激突。どちらが日の丸を掲げるか楽しみだ。

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 ヨシムラ創業者の“ポップ吉村”こと吉村秀雄氏は、エンジンチューニングにおいて「神の手を持つ」とあがめられた人物。第1回鈴鹿8耐の覇者で、巨大企業のホンダに町工場のヨシムラが挑む物語は、多くの人の心を捉え、鈴鹿8耐人気を長らく支えてきた。多くのメカニック、ライダーを育てながら、鈴鹿8耐をライフワークとして挑戦し続け、ロードレース世界選手権で活躍したグレーム・クロスビー、ケビン・シュワンツらを見いだし、全日本ロードでは辻本聡らの人気ライダーを輩出。鈴鹿8耐では4度の勝利を数える。

 ユーロスポーツは、そんな日本の名物チームのEWC参戦を願い続けていた。「5年前から熱心に誘ってもらっていましたが、ヨシムラのライフワークは鈴鹿8耐で、EWCではありません。EWCを戦うSERTとの付き合いはありましたが…」と加藤陽平監督。SERTとヨシムラの関係は深く、「スズキ車の歴史をともに築いてきた」(吉村不二雄社長)。

 SERTを設立したドミニク・メリアン監督は、ライダー以上の人気を誇り、EWCの顔ともいうべき人物だ。EWCで15回もタイトルを獲得し、他チームの監督らからも崇拝され「彼のようになりたい」と言われてきた。その名監督が18年の鈴鹿8耐を最後に引退し、チームは新体制に。そして新監督となったダミアン・ソルニエ氏から、加藤監督の元にSOSが頻繁に届くようになった。EWCの戦い方が様変わりして、従来の戦法ではトップ争いに加わるのが難しくなったのだ。

 加藤監督は18年にボルドール24時間の視察に行っている。「想像以上に面白い戦いだと思いました。24時間を戦う大変な労力を使う価値があると率直に感じた。8時間耐久では、トラブルや転倒があると優勝は難しくなる。でも、24時間あれば挽回も可能。勝つことを諦めない戦いがある。そこに何よりも惹かれた」と語る。加藤監督は、ボルドールからチームに合流してサポートを始める。

 19〜20年シーズン、SERTは4年ぶり16回目のタイトルを獲得した。この栄光の陰に加藤監督の支えがあったことをチームのスタッフ、ライダーは知っている。新型コロナウイルスの影響で、現地に向かえない時も、リモートでともに戦い続けた。

 「これまでも鈴鹿8耐でヨシムラのエンジンが速いのはなぜだとSERTのスタッフが尋ねてきました。同じエンジンで違いはないのですが、細かな調整など、セッティングを出して行くことで力が変わります。今季、チームに合流して戦いながら、本格的に関わってアドバイスすると、最初は少し抵抗もありました。でも、試してもらってタイムが上がり、ライダーの反応が変わることで受け入れてもらえるようになりました」

 加藤監督のチーム合流には、スズキ本社の意向が大きく関わっている。スズキのファクトリー活動としてのEWC参戦を依頼され、ヨシムラはEWC参戦に大きくかじを切った。

 今季の全日本ロード最終戦の予選終了後にSERTとヨシムラが組んで新チームを結成してEWCを戦うことが欧州全土にライブ中継され話題になった。同時に発表されたマシンのカラーリングは、これまでのSERTカラーのブルーはかすかに残ったものの、赤黒のヨシムラカラーがメインになった。

 「スズキからの信頼、欧州のSERTファンの期待を裏切ることはできない。もちろん、ヨシムラファンの方々からの注目もあり、ヨシムラの名に恥じない戦いをしなければという責任も同時に感じています。全戦全勝でチャンピオンを取るくらいのことをやらないと納得してもらえない。その覚悟で挑みます」

 加藤監督は2007年にヨシムラの監督に就任している。就任後初の鈴鹿8耐では、ヨシムラにとって27年ぶりの優勝を成し遂げた。その後09年にも8耐を制し、伝統をつないできた手腕には定評がある。その加藤監督が藤井監督に勝負を挑む。「EWC参戦を即決する決断力、戦いぶりも素晴らしいと拝見していました。目指すものは同じだと思います」とエールを送りながら、ともに世界制覇を目指す。

 ▼吉村秀雄(よしむら・ひでお)1922(大正11)年〜95(平成7)年。オートバイ部品、用品メーカーのヨシムラ創業者。オートバイチューニングで「神の手を持つ」と言われ数々の名勝負を演じた。70年代の耐久レースで無敵艦隊と呼ばれたホンダを相手に、第1回鈴鹿8耐でプライベートチームとしてヨシムラが優勝。巨大ワークスと戦うプライベーターの激突という鈴鹿8耐の核を作り絶大なる人気を集め、その人気は今も衰えてはいない。2代目監督は、長男の不二雄氏が継ぎ、現在は孫の加藤陽平氏が継承。

 ▼加藤陽平(かとう・ようへい)1975(昭和50)年11月19日生まれ、45歳。神奈川県出身。祖父・吉村秀雄氏の次女・由美子さんが母。2002年ヨシムラ入社。07年からヨシムラの監督を務め、同年の鈴鹿8耐では加賀山就臣/秋吉耕佑組で優勝。09年にも酒井大作/徳留和樹/青木宣篤組で勝利。10年スーパーバイク世界選手権に参戦し、13年に全日本ロード復帰。来季から世界耐久選手権への挑戦を開始する。