

佐野代表と黒川監督は同じ高校の1学年違いの先輩後輩で、学生時代をバイクブームの真っただ中で過ごした。ツーリング仲間でもあり、佐野はフレディ・スペンサー(元ロードレース世界選手権500ccクラス王者)のファン、黒川はレース参戦を開始と、レースを通じて絆を強めた。
その後、黒川は川崎重工に入社し、メカニックとして井筒を担当。2000年には初の全日本スーパーバイクチャンピオンを獲得し、スーパーバイク世界選手権(WSB)日本ラウンドでダブルウインを飾った時も井筒とともに戦った。井筒の傍らには常に黒川があり、井筒の海外参戦でもなくてはならない存在としてキャリアを積み重ね、カワサキを代表する「チームグリーン」の監督まで上り詰めた。19年には、カワサキとして26年ぶりの鈴鹿8耐優勝も支えた。

「自分が感じるレースの魅力は意外性だと思う。完全に予測のつくレースはない。絶対に勝つと思われたライダーが負けたり、勝つわけがないと思われたライダーがスイッチが入って快走して優勝したり。その意外性が面白さであり魅力だ。ワークスチームのように、勝てるバイクやライダーをそろえることはできないが、夢を持つ若手ライダーにチャンスを与えることができたら」と佐野代表。
一方、黒川は「自分たちがレースで得た経験やノウハウを若手に伝えたい、つなげたいという気持ちは常にあり、若手を応援したい思いは佐野代表も同じ。レースを通じて多くのものをもらった自分たちが、その業界に恩返しができるならチーム結成は意味がある」と思い、すぐに井筒や伊藤に相談した。2人はその思いに賛同。井筒はレース界から離れることを決めていたが、「黒川さんの頼みを断ることはできなかった。若手育成の難しさは感じているが、だからこそ取り組まなければならない課題。どこまで行けるのか、われわれにとっても挑戦だ」と、チーム結成に動きだすことになった。
そして誕生したマツバレーシングは、21年の全日本ロード第5戦鈴鹿ラウンドで初戦を迎える。ライダーはチームグリーンで走ったことのある松崎克哉を起用、カワサキの新型ZX─10Rが全日本デビューすることでも大きな注目を集めた。新チームは後半戦の3戦を戦い、最高位14位(岡山)でその年を終え、今季から2台体制に増強し、ライダーを一新した。
エースに抜てきされた長谷川聖は、19年の全日本JGP3チャンピオンで、20年にST1000にステップアップ、チームカガヤマに所属して同年ランク12位、21年は11位。今季はマシンをスズキからカワサキに乗り替えて新たな挑戦を開始する。中村竜也は19年に全日本ST600クラス参戦を開始し、昨年はランキング14位。今季からST1000に上がった。ともに21歳。黒川監督と井筒が初めて全日本チャンピオンに輝いた2000年に誕生した。

約2カ月のインターバルをおいて、ST1000の第2戦は今週末、SUGOで行われる。ここから残り4戦の戦いが始まる。黒川監督は「開幕戦では結果を残すことができなかったが、新メンバーで1戦を戦い、お互いの理解が進んだ。チームもライダーも伸びしろがあり、可能性を感じることができた。長谷川も中村もこのチームで飛躍できるように力を尽くしたい」と決意も新た。佐野代表がレースの魅力という意外性を実現するため、激戦のST1000に挑戦する。
初年度の20年は高橋裕紀(ホンダ)、昨年は渡辺一馬(ホンダ)がタイトルを取った。今季のフルエントリーは22人で、高橋と渡辺のチャンピオン対決が焦点。これにヤマハの若手有望株の南本宗一郎と豊島怜、スズキのモトGPテストライダーも務める津田拓也、20年JGP3チャンピオンの村瀬健琉(スズキ)が挑む。
カワサキは18年JGP2チャンピオンの岩戸亮介が、アジアロードレース選手権からスイッチして参戦、3年ぶりに全日本に復帰する。長谷川、中村と同じカワサキのZX─10Rを駆る。FIM・CEVレプソル国際選手権を戦って来た石塚健がBMWを走らせる。開幕戦は高橋が貫禄勝ちしたが、シリーズは残り4戦の戦いとなる。
▼長谷川聖(はせがわ・しょう)2000年7月23日生まれ、21歳。鹿児島県出身。複数の地方選手権チャンピオンを経て16年、全日本に昇格してJGP3参戦、19年同クラスチャンピオン。20年からST1000で、チームカガヤマ(スズキ)から出場して同年ランク12位、21年11位。
▼中村竜也(なかむら・たつや)2000年6月19日生まれ、21歳。神奈川県出身。17年にロードレースデビュー。18年もてぎロードレース選手権ST600クラスチャンピオン。19年、全日本に昇格してST600参戦。21年はランク14位。