さらなる高みへ 7度目のタイトルに挑む絶対王者
 5年連続7回目のタイトルに挑むレプソルホンダのマルク・マルケス(27)にとって、コロナ禍による開幕の遅れは間違いなく追い風になった。オフに手術して回復が遅れていた右肩に十分休養を与えることができたからだ。最大のライバルは、急成長を見せるペトロナスヤマハのファビオ・クアルタラロ(21)。テストでも昨年見せたスピードは衰えず、初勝利から一気にチャンピオンを狙う。

 絶対王者のマルク・マルケスだが、今季は2つの不安を抱えていた。1つはオフの間に手術した右肩の回復が遅れていたことだ。テストで転倒したこともあり、「右のロングコーナーがつらい。体調はまだ完全ではないし、テストメニューもすべて消化したわけではない。ただ、ヤマハとスズキ勢が大きく前進したことは確認できた」とライバル勢の進化に警戒感を強めていた。

 2つ目は、テストでタイムが伸び悩んだ原因が空力にあり、その対応に追われながら3月8日決勝の開幕戦カタールGPを迎えるところだった。

 しかし、新型コロナの感染拡大で最高峰のモトGPクラスはキャンセルされ、開幕は4カ月後になった。これがマルクにとっては好材料。右肩は回復し、チームは空力対策をしっかり取ることができたからだ。

 新たに組み直された日程は4カ月で13戦という短期決戦。同一サーキットで2週連続開催のダブルヘッダーが5回(計10戦)、3連戦が3回というハードスケジュールで、レースを消化しながらマシンを仕上げていく時間はない。車両のベースの仕上がりが勝敗を分けるだけに、体勢を立て直したマルクとホンダ陣営の強さは盤石だろう。

 3月下旬から5月下旬までの2カ月、マルクはセルベラの自宅で“巣ごもり”を続けた。そして外出禁止が解除となってからの1カ月半は、モトクロス、ダートトラック、ミニバイクなどで感覚を磨いてきたという。

 「こんなに長い時間バイクに乗らなかったのは初めての経験だったので、最初はちょっと変な感じだったが、すぐにフィーリングは戻った」。順応性の高さも短期決戦には大きな武器になる。

 過去2年、ヘレスで行われたスペインGPを制した。決してヘレスは得意ではないというが、RC213Vとのマッチングの良さであのテクニカルコースを攻略してきた。

アレックス モトGP初参戦!!

 今季レプソルホンダには、マルクの3歳年下の弟アレックス(24)が加入した。WGPの同一チームで兄弟がフル参戦するのは史上初。それも最高峰クラスのトップチームとなれば、いやが上にも注目が高まる。

 天才肌の兄マルクとは対照的に、アレックスは石橋をたたいて渡る慎重派。モト3時代の2014年には、アレックス・リンス(現スズキ)、ジャック・ミラー(現プラマック)とし烈なチャンピオン争いを繰り広げてタイトルを獲得。モトGPの兄とともに、史上初の同一シーズン兄弟チャンピオンにも輝いた。そして昨年はモト2を制覇、マルクとともに2度目の兄弟王者となった。

 タイトル獲得の成功は、兄の指導でメンタル面が強くなったからだ。今年はルーキーとしてレプソルホンダ入り。もちろん、プレッシャーも大きい。それだけに、「まだ学ばなければならないことはたくさんあるし、走るたびにいろいろ学べている。ここまで達成してきたことすべてに満足しているが、今年は一歩一歩前進していきたい」とアレックスは殊勝だ。

 コロナ自粛中のバーチャルレースでは一足早く開幕Vを達成。バーチャルレースでは常に優勝争いしたアレックス。次はリアルなレースでの活躍が期待される。

チャンピオンマシンで表彰台だ!

 マルク・マルケス同様、モトGP3年目の中上貴晶(28)=LCRホンダ・イデミツ=にとって、開幕の遅れは追い風になった。昨年10月の日本GP終了後に負傷した右肩の手術を行い、終盤の3戦を欠場。そのため年内のテストに参加できず、2月のセパンテストで復帰したものの「60%の状態」で、開幕に不安を抱えていたからだ。

 今季、中上が乗るのは1年落ちの19年型RC213Vだが、十分な実績があるだけにセッティングに悩む必要はない。「昨年マルクが400点以上を獲得したチャンピオンマシン。そのパフォーマンスを最大限発揮したい。シーズン序盤がいろんな意味でチャンス」と、ハンディを前向きにとらえる。

 今年の目標は「常にトップ6」。「それが達成できれば表彰台獲得のチャンスもある」と中上は意気込んでいる。

RC213V 乗りやすさ追求

 マルクが厚い信頼を寄せるHRCの横山健男テクニカルディレクターは、今季型RC213Vについて「エンジン、車体、制御などすべての面を常に見直している。最近、RC213Vは乗りにくいバイクという指摘もあるので、今年は乗りやすいバイクを目指した」と説明した。

 マルクについては「他のライダーと違う乗り方ができる。改善要求は多く、彼特有のものもある」と、どんなバイクも乗りこなせる器用さを認めている。しかし新加入のアレックスに“暴れ馬”は難しいため、乗りやすさの追求に開発をシフトした。きめ細やかなサポートがチャンピオンチームを支える。

初テスト上々

 ○…LCRホンダ・カストロールで6年目のカル・クラッチロー(34)が、今季初テストとなったセパンで総合2番手と好スタートを切った。16年2勝、18年1勝と勝ち星を挙げたが、昨年は3回表彰台に立つもけがのため優勝なし。テストでもぱっとしなかったが、今年はかなり状態がいい。気分が乗ったときの熱い走りにファンも多いだけに、復活が楽しみだ。