3冠へ大きな手応え
 ロードレース世界選手権(WGP)の最高峰モトGPクラスの今季の戦いを占う3月上旬のカタールテスト(ロサイルサーキット)で、スズキ勢が好調な走りを見せた。ディフェンディングチャンピオンのジョアン・ミル(23)が総合7番手、チームメートで昨年ランキング3位のアレックス・リンス(25)が同8番手。トップから1秒以内に11台という接戦の中で力強い走りを見せた。ミルは連覇へ、リンスは初タイトルへ。切磋琢磨(せっさたくま)して頂点に挑む。

リンス初栄冠

「すべてがうまくいくと確信した」

 昨年までチームマネージャーを務めたダビデ・ブリビオ氏がチームを去り、「チーム・スズキ・エクスター」は新しい体制に生まれ変わった。カタール公式テストから現地で指揮を執る佐原伸一プロジェクトリーダー(PL)は「ダビデがいたときも多くの決定が共同で行われてきた。私とテクニカルマネージャー(TM)の河内健らと幅広くチームの中で話し合ってきたし、情報はすべて共有されている。今年もそれは変わらない」と説明。新たなチームマネージャーを置かず、佐原氏を中心とした集団指導体制でいくことを明かした。「昨年タイトルを獲得したが、今年も目標は変わらない。これまで通り最高の結果を得るために毎週ベストを尽くすだけ」と佐原PLはきっぱり。

 マシン開発を担当する河内TMは「テストではメニューをほとんど消化することができた。多くのデータを収集することができたし、改善しなくてはいけない点もいくつか分かった」と成果を強調した。

 コロナ禍で2年目のシーズンを迎える今年は、エンジン開発が凍結されて2020年仕様で今年も戦うことになる。昨年中に準備していた新しいエンジンは22年に向けて開発を続けていくが、テストライダーだけでなく、ミルとリンスも22年型スペックをテストして大きな手応えを感じている。

 昨年はライダーズタイトルとチームタイトルを獲得。コンストラクターズ(製造者)タイトルは3位だったため、今年の目標は3冠獲得だ。「開幕戦を戦う準備はできた」と河内TMは力強く語った。

ミル王座防衛

「やれることはすべてやった」

 5日間のテストで202ラップをこなしたリンスが今季のチャンピオン候補に名乗りを上げた。テスト前半(3月6、7日)は盛りだくさんのテストメニューを消化するため試行錯誤が続いたが、後半の3日間(10〜12日)は、順調にセットアップを進め、走りも表情も元気あふれるものに変化した。

 「本当にたくさんのことを試した。シャシーにスイングアーム、そして空力パーツ。すべてが昨年の発展型で似ているが、良くなっていた。これは素晴らしいことだし、とにかく気持ち良く乗れている」とマシンのアップデートに大満足。その証拠に、一日のテストを締めくくる最後には何度も何度も豪快なウイリーを披露したほどだ。

 「今年はマレーシアテストがキャンセルされてオフが長く感じられ、早く乗りたくて仕方がなかったが、ようやく乗った2021年型GSX─RRは期待以上の仕上がりだった。チームは僕に力と自信を与えてくれた。すべてがうまくいくと確信した」と念願のタイトル取りに自信をみなぎらせた。

 昨年は、モトGP初戦となった第2戦スペインの予選の転倒で右肩を負傷。最初のレースを欠場するだけでなく、4か月半で14レースという短期決戦の半分を力の入らない右肩と格闘した。そのけがが回復、調子を取り戻したときにはすでに後半戦。1勝を含む4回の表彰台でチャンピオン争いに加わったものの、ランキングは3位にとどまり、結果として、チームメートのミルのタイトル獲得を強烈にサポートすることになった。

 1995年12月8日生まれの25歳。モト3とモト2クラスでチャンピオン争いを繰り広げ、2017年、21歳でスズキのワークスライダーに抜てきされる。最初の2シーズンはけがに泣いたが19年には2勝を挙げて一躍トップライダーの仲間入り。スズキのエースに成長した。

 気さくで明るい性格だが、コースに出ればスペイン人らしい熱血漢。その熱い走りにファンは多く、スズキのムードメーカーである。一番の大敵は自身のけが。今季はそれを克服して念願のタイトル取りに挑む。
 昨年、シーズン最多タイの9人のウイナーが誕生したモトGPの厳しい戦いを制したミルが、2連覇に向けて“静かに”スタートを切った。5日間のテストでは無理にトップタイムを狙うこともなく、着実にメニューを消化して総合7位。チャンピオンになり、追われる立場に変化した自分と対峙(たいじ)しながら「やるべきことをやるだけ」と黙々と走行に集中した。

 テストを終えて「去年のテストの時点では、自分はトップ5を目指すだけで十分だった。でも今年はそうはいかない。すべてのレースで表彰台に立つこと。もしくは表彰台争いに加わることが目標」と言い切った。

 昨年は、シーズン序盤に転倒が続いて厳しいスタート。ゆえにだれ一人ミルのタイトル獲得を予想した者はいなかったが、第5戦オーストリアで2位になり初表彰台を獲得すると、それから表彰台の常連になった。第7戦サンマリノ、第8戦エミリアロマーニャ、第9戦カタルーニャと3戦連続表彰台で一気にランキング上位へ。第11戦アラゴン、第12戦テルエルで再び連続表彰台に立ち、タイトル争いから頭ひとつ抜け出すと、第13戦ヨーロッパで念願の初優勝を達成してタイトル王手。第14戦バレンシアでは7位になってチャンピオンに輝いた。まさに“ミルミル”頂点に駆け上った。

 1997年9月1日生まれの23歳。17年に圧倒的な強さでモト3チャンピオンになり、18年にモト2にスイッチし、シーズン中盤には翌年のスズキワークスに抜てきされた。モトGPデビューの19年はけがも多かったが、その非凡な速さは大きな注目を浴びた。

 身長181センチの大柄な体を巧みにつかい、GSX─RRのパフォーマンスを最大限に引き出す走りは、今年も文句なくチャンピオン候補の筆頭。「本当に多くのテストをこなした。やれることはすべてやったし、2021年型GSX─RRのパフォーマンスと自分のラップタイムに満足」と2連覇に自信を見せる。

 地中海に浮かぶマヨルカ島出身。バレンティーノ・ロッシを目標にレースを始め、マヨルカ出身のスーパースターでテニス選手のラファエル・ナダルを尊敬するが、いまやナダルに並ぶスーパースターに成長した。

 今年はチャンピオンナンバーの「1」を付けるか、これまで通り「36」で走るか悩んだが、最終的に36を選んだ。「これまでこのゼッケンで2度チャンピオンを獲得した」と、験をかついで連覇へ挑む。

津田&ギントーリ

多くのメニューを消化

 連覇を狙うスズキは、シルバン・ギントーリ(38)と津田拓也(35)の2人のテストライダーを起用し、多くのメニューを消化した。

 津田が126周だったのに対し、ギントーリはテストライダーだけが走れるシェークダウンテストを入れて6日間で約14レース分の合計258ラップ。「車体、空力パーツ、サスペンションなど、本当に多くのテストをこなし、比較テストができた。いいもの、そうでないものをクリアにすることができた。スタートのテストも良かったし、大きな成果を得られた」と満足そう。レギュラーライダーが効率良くテストを行うためのメニューに取り組んだ。