HSR九州で行われたホンダチームアジアの合宿に参加した(左から)古里太陽、青山博一監督、小椋藍。モタードバイクで腕を磨いた
HSR九州で行われたホンダチームアジアの合宿に参加した(左から)古里太陽、青山博一監督、小椋藍。モタードバイクで腕を磨いた
 2輪レースの最高峰、ロードレース世界選手権(WGP)で着実に存在感を増すのが、ホンダの育成シリーズで育ったアジアの若い選手たちで構成される「ホンダチームアジア」だ。今季は注目の新人の古里太陽(16)がモト3クラスにデビューし、小椋藍(20)がモト2クラス2年目の戦いに挑む。開幕前のテストに備える2人の期待の大きさは─。 (ペン&カメラ=遠藤智)

“飛び級”でモト3に参戦する16歳 古里太陽

「不安以上に楽しみ」

WGPデビューに向けてトレーニングに励む古里
WGPデビューに向けてトレーニングに励む古里
 古里太陽は16歳にして華麗なキャリアの持ち主だ。昨季、アジアから世界を目指す選手たちで競われるイデミツ・アジアタレントカップで史上初の全戦全勝を達成。シーズン途中には、WGPに併催されるルーキーズカップのイタリア大会に参戦し、いきなりデビューウイン。初めてのサーキット、初めて乗るバイクで初優勝達成と世界を驚かせた。今年はホンダチームアジアからひと足飛びで世界戦に出場することが決まり、さらなる注目を集めている。

 鹿児島県鹿屋(かのや)市出身。2005年7月12日生まれの16歳。桜島の噴火と種子島のロケットを見て育った。17年、小学6年(11歳)の時に鈴鹿サーキットレーシングスクール(SRS)に入校。ベーシック(基本コース)の成績優秀者として中学1年でアドバンス(ステップアップコース)に昇格した。中学2年の19年には、地方選手権の「鈴鹿サンデーロードレース」JGP3クラスのチャンピオンになり、20年のアジアタレントカップ参戦へつなげた。同年はコロナ禍のためわずか1大会しか開催されず、カタールで行われた2レースに出場しただけ(2&4位)だったが、昨年はカタール大会の2戦4レースを完全制覇。最終戦インドネシアの2大会も3戦全勝成。結局、負け知らずでタイトルを獲得した。

 そして一気にWGPへ。アジアタレントカップのチャンピオンは通常、FIM・CEVレプソル国際選手権(CEV)やルーキーズカップに昇格するが、古里は“飛び級”で世界の切符を手に入れた。

 「去年、カタールで4連勝したときに世界に行きたいと思った。途中参戦のルーキーズでは、デビュー戦で勝てたけれど、そのあとは転倒も多く、なかなか勝てなかった。でも、ホンダチームアジアから世界戦に出場することが決まり、すごくうれしい。今はどこまでやれるか分からないし、不安ばかりだが、速くなるためにトレーニングもテストも本番も頑張りたい」

 WGPは世界中から速い選手が参加するレースで、速いだけではなく、究極の負けず嫌いが集結するが、古里も大の負けず嫌いだ。昨年の夏以降、ルーキーズのスケジュールの合間を縫って、青山博一監督の声がけでホンダチームアジアのメンバーに交じってスペインの自転車トレーニングに参加。最初は先輩たちのペースについていけず悔しい思いをしたものの、それをバネにどんどん速くなった。

 このオフには、チームがHSR九州(熊本県大津町)で行う合宿に初参加。先輩ライダーたちと一緒にライディングのスキルを磨いた。ホンダCRF450Rを使用したモタードトレーニングでは、最初はうまく乗りこなせなかったものの、合宿が終わるころにはコツをつかみ、あっという間にスピードを上げていった。才能ある選手は、戦う舞台のレベルが上がれば上がっただけ成長する好例と言えるだろう。

 身長162センチの古里は体重を5キロ増やして55キロにした。モト3マシンとライダーを合わせた最低総重量は152キロと決まっており、なるべくマシンに重りを積まなくていいようにするためだ。「なかなか太らない体質なので、とにかくいっぱい食べるように頑張った」という。

 WGP1年目の序盤は初めてのサーキット続きで苦戦が予想されるが、そこからどれだけ成長できるか、真価が問われるところ。

 「不安もあるけど、それ以上にすごく楽しみ。早く世界を戦うモト3のライダーたちと一緒に走りたい」と期待に胸を膨らませている。

 開幕戦カタールGP(3月6日決勝)に向けて、2月にはスペイン、ポルトガルで初テストが行われる。その準備のため1月下旬にはチームの本拠地のあるスペイン・バルセロナへ。それまで一段とトレーニングに熱を入れる。

モト2参戦2年目…来季モトGPに挑むためにも 小椋藍

「ランク4位以上狙う」

小椋は「今年は4位以上」と高い目標を掲げる
小椋は「今年は4位以上」と高い目標を掲げる
 モト2クラスで2年目のシーズンを迎えるイデミツ・ホンダチームアジアの小椋藍は、日本人選手で最も期待されている若手ライダーだ。昨年はルーキーながら、フロントロー2回、決勝では2位を最高位にシングルフィニッシュ12回、ランキング8位と大きな成長を見せた。

 小椋の特徴は、フリー走行より予選、予選より決勝でタイムと順位を上げていく進化する走り。昨年はモト2マシンで初めて走るサーキットばかりだったが、2年目の今年は初日のフリー走行から昨年よりはるかに高いレベルでスタートすることが予想され、予選、決勝ではさらに上を目指すことになる。

 「去年はランク8位。今年は僕よりランキング上位にいた4人がモトGPにスイッチしたので、当然4位以上を狙うということになる。でも、レースはやってみないと分からない。とにかく、その日その日を全力で走るだけ。去年はコーナーの進入とコーナースピードに課題があったので、今年はその部分を良くしていきたい」

 昨年の最終戦バレンシアGPは、その前のレースで左足甲を骨折したことで欠場した。その影響で本格的なトレーニング開始は年明けになってからになったが、HSR九州のモタードトレーニングでは圧巻の走りを披露した。

 ホンダの育成ライダーとして、アジアタレントカップ、ルーキーズカップ、FIM・CEVレプソル国際選手権(CEV)というグランプリの登竜門で着実にステップアップしてきた。モト2の上は1つ。ホンダとイデミツが協賛するアジアタレントカップから、初めてモトGPライダー誕生の期待が膨らんでいる。

 26日には21歳になる小椋。昨年コース上でバトルしたライバルたちは一足先にモトGPに昇格した。そのライバルたちに追いつけ追い越せと、今季はモト2で初優勝を達成してチャンピオン争いに加わり、来季はモトGPに挑むため、今年は文字どおりの正念場を迎える。

今でも若手ライダーと一緒にトレーニング

青山監督「いろんなこと知ることができる」

 チームを引っ張るのが、2009年の250cc(現モト2)クラス世界チャンピオンの青山博一監督(40)だ。18年にモト3のホンダチームアジア、モト2のイデミツ・ホンダチームアジアの監督に就任して今年で5年目。

 就任当初はテストライダーを兼務していたが、コロナ禍のこの2年間は、日本との行き来が難しくなったため、バルセロナでチーム運営にほぼ専念。さらに、アジアタレントカップ、CEVレプソル国際選手権、ルーキーズカップに出場するホンダ育成ライダーの指導も行うなど多忙な毎日を送る。

 現在も声が掛かればテストに参加するという青山監督は、自身のトレーニングを兼ねて所属するライダーたちと一緒にトレーニングに励む。自転車、モタード、トライアルなどメニューは多岐にわたるが、「若手ライダーたちと一緒にトレーニングすることでいろんなことを知ることができる」と語り、それが指導に生きることも多く、ライダーたちからの信頼は厚い。今回もモト2の小椋藍とモト3のルーキー、古里太陽とみっちりと汗を流した。

 「藍はモト3で2年目にチャンピオン争いをした。モト2で2年目を迎える今年は、チャンピオン争いを期待しているし、それだけの力があると思う。太陽は、初めて経験することが多いので苦労も多いと思うが、一戦一戦いろんなことを学び、成長してもらいたい」

 今季初テストまであと1カ月。今年も2チーム4台体制。多忙な毎日が待ち受ける。

モト3は選手一新 マリオ・アジ参戦

 ○…ホンダチームアジアの今年のモト3クラスはライダーが一新され、ルーキーの古里太陽(16)と、FIM・CEVレプソル国際選手権のジュニアモト3世界選手権に出場していたマリオ・アジ(17)=インドネシア=が参戦。モト2は継続参戦の小椋のほか、昨年オーストリアGPの5位を最高位にランキング18位のソムキャット・チャントラ(23)=タイ=がモト2で4年目のシーズンを迎える。