第5戦イタリアGP編
痛恨のリタイアを喫したノリックだが、成果はあった(カメラ=竹内秀信)
痛恨のリタイアを喫したノリックだが、成果はあった(カメラ=竹内秀信)
 予選で今季最高位の5番手を獲得した阿部典史。96年の日本GP以来の優勝の期待がかかった決勝では2列目から見事にホールショットを決めた。しかし、その周回の最終コーナーでまさかの転倒。あまりにもあっけない幕切れとなった。だが、最も苦手としていたムジェロサーキットを見事に攻略し、成長ぶりを存分にアビール。次戦以降に、ますます優勝の期待を膨らませた。
 今回のイタリアGPは、何もかもが初めての経験だった。レースをするようになってから、決勝レースで1周目に転んだのも初めてなら、その転び方も初めて経験するものだった。フロントとリアが一遍に滑った。何で転んだのか自分でも分からない不思議な一瞬だった。

 スタートは2列目。今回はバッチリとスタートが決まって1コーナーでトップに立つことができた。その周回にビアッジに抜かれたけど、すごくゆっくりしたペースで、いつもの調子で走っていた。そして最終コーナーに差しかかり、あっという間に転んでしまったんだ。

 無理をしていたわけでもないし、いつも通りに走っていた。レースを始めてから僕は1周目に転んだことがなかった。だって1周目は全体的にペースが遅いし、自然と転ぶような走りにならないからなんだ。寒い時なんかは、確かにタイヤが温まっていないから特別に気を使うということもあるけど、今回は気温も高かったし、そんなこともなかった。

 それがフロントとリアが一遍に滑ってしまった。転んだ瞬閻は、ただただ夢中で、起き上がってバイクの方に駆け出していたけど、とても再スタートできる状態じゃなかった。やってしもうたぁ〜という気持ちと悔しさと自分への怒りとで、なんだかぐちゃぐちゃな気持ちだったんだ。

 でも、仕方がない。とにかくピットに帰らなくてはと、最終コーナーからピットに向かって歩き出した。いつもならだれかが迎えに来てくれるんだけど、今回はどこかですれ違ったみたいで、ずっと歩くことになった。その間ずっと、観客席から「アベ〜」「ノリック〜」とみんなが声を掛けてくれた。そして拍手をしてくれる。転んでしまってこんなことを言うの変だけど、なんだかうれしくなってしまった。ピットにたどり着いたら汗だくになっていた。と同時に転んだ瞬間のいろんな気持ちも全部汗で流れてしまって、何だかすっきりした気分になっていたんだ。

 今回は予選も良くて、優勝したクリヴィーレと同じくらいのタイムをコンスタントに出せていた。だから決勝ではみんなも僕に期待していた。その期待を裏切ってしまったことは本当に残念だけど、大嫌いなムジェロでこれだけ走れたことで、次もいけるという自信がわいてきた。

 予選が始まる前日には原田さんに、フィレンツェの郊外にあるブランド品のアウトレットのお店に連れて行ってもらった。そこで母へのお土産を買って、その日の夜はフィレンツェで原田夫妻と一緒に食事をした。イタリアでの原田さんの人気をあらためて実感。僕もスペインでこうならなくっちゃと思ったんだ。

 次は僕の住んでいるバルセロナでカタロニアGP。ここも大の苦手なサーキットだけど去年は3位表彰台に立っている。今年はもちろん、今回の雪辱もあるし、何としても優勝したいなとと思っている。

■1999年6月9日掲載