第13戦オーストラリアGP編
決勝ではセッティングが決まって序盤はトップグループにつけたノリック(カメラ=竹内秀信)
決勝ではセッティングが決まって序盤はトップグループにつけたノリック(カメラ=竹内秀信)
 言葉では言い尽くせないほど悔しいレース――。最も得意とするフィリップアイランドで行われた第13戦オーストラリアGPは、トップ争いを展開した阿部典史にとって悔やみきれない結果となった。中盤、マフラーのサイレンサーが脱落するトラブルでスローダウン。再スタートはしたものの、1周遅れの16番手に終わった。その後、独走していたK・ロバーツJrが脱落。最後は後方にいた岡田忠之が優勝しただけに、逃がした魚の大きさに身もだえするしかなかった。
 こんなせりふを吐くのは、今まで何度もあった。それは、もう何度も口にしてきた“タラレバ”だけど、今回だけは、今までと絶対に違っていた。もちろん、ジュニア(ロバーツ)のリタイアがあってのことだけど、あのまま走っていたら、今回は絶対に勝てていたと思った。

 その理由は、今回はビアッジには絶対に負けない自信があったからなんだ。そのビアッジが、最後は岡田さんとラコーニと優勝争いした。ビアッジについていくのはすごく余裕があった。でも、僕が前に出るとアイツはムキになって抜き返して来る。無理に抑えようと思えば抑えられたけど、今回はビアッジのバイクの方がストレートで伸びている。コーナーで抜いてもストレートで抜き返して来る。その繰り返しで、そんなことをいつまでやっていても無駄だから、あいつが疲れてペースが落ちるのを待って、それじゃあねぇと抜いていく作戦だった。

 ひとりで走っていると、1分32秒台後半で走ることができた。ビアッジは頑張って33秒台。トップのジュニアには追いついたかどうかは分からなかったけれど、今回はストレートの伸びがビアッジに比べてなかったことで、チャンスを待つ戦いになったんだ。

 そんな状況で中盤を迎えた。すると突然、エンジンのパワーが落ちてしまった。急に音が変わったのでサイレンサーが脱落したことはすぐに分かったけれど、「どうしようか?」と悩んだ。このまま走ろうか、それともピットインしようかと。結局、ピットに向かった。サイレンサーがなくても走ることはできるが、エンジンが焼きつく可能性がある。フィリップアイランドはどこも高速コーナーだから、もし何かがあったら危ないと判断したんだ。

 サイレンサーをスペアバイクから外して、修理している間も、悔しくて悔しくて仕方がなかった。再スタートした後も、あれだけ頭に来ていたら普通はタイムは出ないはずなのに、33秒台前半でずっと走ることがてきたんだ。とにかく、本当に残念という言葉しかない。今回ほど、あのまま走っていれば勝てたと自信を持っていえるレースもなかったような気がした。

 前回のバレンシアは、予選で絶好調だったのに決勝は雨になった。今回は予選は良くなかったけれど、決勝ではセッティングがバッチリと決まった。予選は、オフのテストのセッティングデータをもとに走っていた。テストでは32秒台を連発して走ることができたのに、今回はまるでダメ。リアタイヤのグリップが悪くてタイムが伸びなかったのだけど、何が原因なのかは皆目分からない。

 それで決勝は思い切って車高を上げた。イチかバチかでテストの時とはまるで違うセッティングになってしまったけれど、走り出してみたら、これがすごく良かったんだ。それだけに、ホント、言葉では言い表せないほど残念だった。

 レースが終わった後は、自分でもどうしていいのか分からなかった。こみ上げて来る怒りを抑えることができなかった。ジュニアがリタイアしたこともあるけど、なんで岡田さんとビアッジとラコー二が優勝争いしてんだって、考えれば考えるほど頭に来てしまったんだ。

 しばらくして落ち着いて来た。確かに今回も結果は残らなかったけれど、でも、いい走りができたと自分では思った。あと足りないのはツキと運だけ。ツキを呼ぶのも実力のうちというけれど、それを呼び寄せるポジションに自分もだんだん定着して来たかなと思う。常に勝てる可能性のあるポジションにいなくちゃいけない。そうすれば僕にも、そのうち運が回って来るんじゃないかと思った。

 それが次のレースなのか、その次なのか分からないけれど、もうすぐ「僕の時代が来る」と自分に言い聞かせたんだ。

■1999年10月6日掲載