インドネシアの最終戦でタイトルを決めてチームスタッフとともに喜ぶラズガットリオグル。左はトルコ国旗
インドネシアの最終戦でタイトルを決めてチームスタッフとともに喜ぶラズガットリオグル。左はトルコ国旗
 ヤマハのレーシングマシン「YZF─R1」が2021年のロードレース界を席巻した。全日本の最高JSB1000クラスを始め、フランス、英国のナショナルスーパーバイク選手権を制圧。極めつけは頂点のスーパーバイク世界選手権(WSB)で、トプラック・ラズガットリオグル(25)=トルコ=が、6連覇王者のジョナサン・レイ(34)=英国、カワサキ=を破る快挙を達成した。また、今季フル参戦を開始した野左根航汰(26)も徐々にWSBになじみ、来季の飛躍の土台を固めた。

 7月には全日本ロードJSB1000クラスで、ヤマハファクトリーの中須賀克行が史上初となる10度目のタイトルを獲得した。ロードレース世界選手権(WGP)参戦60周年記念カラーのマシンで、自身の最多勝記録を60勝に伸ばす劇的なチャンピオン獲得劇だった。

 その2カ月後の9月にはフランスのスーパーバイク選手権、10月には英国スーパーバイク(BSB)と、次々にヤマハのタイトル決定の報が届くことになる。

 そして、WSB最終戦が11月19?21日、初開催のインドネシア・ロンボク島のマンダリカサーキットで開催された。ヤマハファクトリーの「Pata Yamaha with Brixx WorldSBK」に所属するラズガットリオグルがタイトル王手で臨んだ。

 WSBではカワサキのレイが2015年から2020年まで、史上最多記録となる6連覇を飾ってきた。その絶対王者に真っ向から挑んだのがラズガットリオグルだったが、戴冠は意外なほどあっさり決まった。30ポイントものリードを築いていたこともあり、レース1でレイとバトルを繰り広げて2位となった時点でタイトル獲得となった。

 トルコ人として初めてのWSBチャンピオンとなり、ヤマハに2009年のベン・スピース(米国)以来12年ぶりとなるライダーズタイトルをもたらした。同時にヤマハのコンストラクターズ、パタヤマハのチームタイトルも決まり、3冠も達成した。

 13大会37レース(2レース中止)の戦いで優勝13回、表彰台29回、ポールポジション(予選トップ)3回という好成績を挙げた新王者は、この日のために用意されたゴールドを基調としたスペシャルなツナギにコース上で着替え、ゴールドのヘルメットをかぶり、トルコ国旗を掲げて、スタッフと喜びを分かち合った。

 「この気持ちをどう表現すればよいか分からないが、今日はとても特別な日になった。ひたすらベストを尽くしてここに立つことができている。このタイトルは父にささげます。彼はいつも、私がいつか世界チャンピオンになると言い続けてくれた。来シーズンも毎レース優勝を目指し、今年以上のいいシーズンになるよう頑張りたい」

 敗れたレイも新チャンピオンに賛辞を送る。「今年は悔いのないレースができたと思う。すべてのレースで最大限の力を発揮し、心を込めて走った。トプラックと彼のチームを祝福する。彼は素晴らしいシーズンを過ごした。とても速かった」と、7連覇を逃した悔しさを内に秘めて若き王者をたたえた。

 折しもロードレース世界選手権(WGP)のモトGPクラスでも、ヤマハのYZR─M1を駆るファビオ・クアルタラロ(22)が初タイトルを獲得した。一方、通算9度の世界王者に輝いたスーパースターのバレンティーノ・ロッシ(42)が現役を退いた。バイクの2大世界選手権でシンクロするように“王朝交代”が実現。2021年はまさにエポックメーキングな年だった。

 ラズガットリオグルにはモトGP参戦のうわさが常につきまとってきた。だが、今年早々にヤマハとWSBの2年契約を結び、少なくとも来季まではWSBにとどまることが決まっている。

 「僕はこのパドックが好きだし、自分はここで生まれたと言ってもいい。でも、もしかしたら来年もチャンピオンになって(23年に)モトGPに参戦するかもしれない」

 来季もタイトルを取って、それを手土産にモトGPの青写真…。ヤマハの新エースの夢は限りなく広がる。
フィナーレにはチーム全員が表彰台に立ってラズガットリオグルの快挙を喜んだ
フィナーレにはチーム全員が表彰台に立ってラズガットリオグルの快挙を喜んだ
 ▼トプラック・ラズガットリオグル 1996年10月16日生まれ、25歳。トルコ出身。トルコでは有名なスタントライダーだった父アリフさんの影響でバイクに乗り始める。2013年、レッドブル・ルーキーズカップに参戦してランキング10位、14年は同6位。18年カワサキのサテライトチームからWSB参戦。この年、ジョナサン・レイ、レオン・ハスラムとともに鈴鹿8耐にカワサキから参戦して優勝するが、ラズガットリオグルは出走しなかった。20年ヤマハに移籍し、開幕戦で優勝を飾ってランキング4位。今季は13勝を挙げて初タイトルを獲得。
 ★スーパーバイク世界選手権(WSB) レース専用に開発したマシンを使用するロードレース世界選手権(WGP)に対し、各メーカーの市販車両をベースにした車両で戦う、世界最高峰のプロダクションレース。1988年にスタートして以降、数々の2輪メーカーが参加しており、市販車最速を決める世界的に人気のシリーズ。ライダーは、併催されるスーパースポーツ世界選手権からのステップアップ、モトGP経験者、各地域や国内選手権出身者など、世界中から高い実力を備えたバラエティー豊かな顔ぶれがそろう。


 ★WSBポイント スーパーポール(予選)の結果でレース1、スーパーポールレース(SPレース)のスターティンググリッド決定。レース2のグリッドのトップ9はSPレース結果で、10番手以下は予選順位。

 決勝はレース1、SPレース、レース2の1大会3レース制。レース1&2は15位までポイントが加算され(優勝25ポイント)、10周のスプリントのSPレースは9位までがポイントを得る(優勝12ポイント)。

12年ぶり2度目のライダーズタイトル獲得

 ヤマハは1995年からWSBにフル参戦を開始し、2007年に初のメーカータイトル、09年に初のライダーズタイトル(ベン・スピース)を獲得した。その後、11年限りでいったん活動を休止したが、16年に復帰し、今季はスーパースポーツのフラッグシップモデル「YZF─R1」で12年ぶり2度目のライダーズチャンピオンをラズガットリオグルが獲得した。